☆しゅわっと炭酸割りが合う日本酒3選

酒というものは、不思議なものである。
長く親しまれてきた飲み方があり、それを崩すことに眉をひそめる人もいる。日本酒もそうだし、ワインもまたそうであった。
どちらも醸造酒で、ゆるりと味わう酒である。昔は「割るなどもってのほか」「冷やすなど邪道」とまで言われた時代があった。
日本酒は燗が当たり前だった。ひやと言えば常温を指し、ぬる燗を好む人ほど酒を知っている、そんな空気が今もどこかに残っている。
けれど、酒は本来、人を楽しませるためのものだ。
暑い盛りに汗をかき、喉が渇いた夕暮れ。そんな日に、少し軽やかに日本酒を楽しみたいと思うのは、ごく自然なことではないか。
近頃、夏酒には二つの流れがある。
ひとつは、氷を浮かべても味が崩れぬよう、しっかりとした旨味を持たせた酒。
もうひとつは、アルコールを少し控えめにし、さらりと涼やかに飲める酒。
そして、もう一つ忘れてはならない楽しみ方がある。
炭酸で割るのである。
酒蔵によって呼び名はいろいろだが、旅手箱では、この飲み方を「ポンボール」と呼んでいる。
さて。
炭酸で割った日本酒は、本当に旨いのか。
答えは実に簡単である。
旨い。
しかも、焼酎やジン、ウォッカの炭酸割りとは、楽しみ方が少し違う。
日本酒は、米と麹が生み出す香りや甘み、酸味、旨味が一本ごとにまるで違う。その個性が炭酸によって軽やかに立ち上がり、酒ごとにまったく違う表情を見せてくれる。
だから、一杯ごとに驚きがある。
暑い日なら、ぐいっと喉を鳴らして飲むのも悪くない。
旅手箱でも、ポンボールに向く酒はいくつも扱っているが、今回は、その中でも特におすすめしたい三本をご紹介したい。
共通しているのは、香りが豊かで、味わいに芯があること。
炭酸を合わせても酒の個性がぼやけず、最後までしっかり旨さを感じられる酒ばかりである。
1)しまんとろまん(製造者:高知県 文本酒造)

四万十川の流れは、いまも昔も人の暮らしを静かに潤してきた。その川辺に蔵を構える文本酒造は、ライト兄弟が大空へ舞い上がった明治三十六年から、酒を醸し続けている。
「しまんとろまん」は、炭酸で割るために生まれた酒である。度数は十九・五度と骨太だが、不思議と刺々しさはなく、口に含めば深みのある甘みがじんわりと広がる。米も酵母も高知のものにこだわり、土地の風土をそのまま一献に映したような酒だ。炭酸でよし、そのままでなおよし。盃を重ねるほどに、その真価がわかってくる。
2)鷹勇 真緋(あけ)(製造者:鳥取県 大谷酒造)
配送可能国:日本
赤い色に目を奪われるが、この酒の値打ちは見た目だけではない。盃を近づければ、苺や杏を思わせる香りがふわりと立ち、ひと口含めば、やわらかな甘みと爽やかな酸が舌をほどよく潤す。炭酸で割れば、その香りはいっそう軽やかに花開く。
されど、奇をてらった酒と思うのは早計である。酒米は山田錦、造りは低温でじっくりと醸す吟醸仕込み。遊び心の奥に、昔ながらの実直な酒造りが、しっかりと息づいている。
3)恵信越 無濾過原酒壱度火入れ純米大吟醸 越淡麗(製造者:新潟県 君の井酒造)

妙高の山あいで育った越淡麗を磨き、蔵に棲みつく乳酸菌の力で静かに醸した一本。搾ったままを濾さず、一度だけ火を入れて封じた酒は、飾り気のない力強さを宿している。
口に含めば、米の旨みとふくよかな甘みがゆるりと広がり、ほどよい酸が後を引き締める。無濾過原酒らしい骨太さを持ちながら、雪室熟成がもたらすまろやかさもまた格別。
派手さではなく、盃を重ねるほどに真価が沁みてくる、食とともに味わいたい酒である。
最後に、ひとつだけ。
ポンボールには、おいしく飲むための作法がある。
氷を入れるなら、まず氷。
次に炭酸。
そして最後に日本酒を静かに注ぐ。
順番は、この通り。
あとはマドラーを一度、上下にすっと通すだけでいい。
勢いよくかき混ぜてしまうと、炭酸が逃げ、酒も機嫌を損ねる。
ほんのひと手間だが、この違いは思いのほか大きい。
旅手箱では、今回ご紹介する三本を含め、常時六種類ほどのポンボールをご用意している。
暑い築地を歩いたあと、しゅわりと一杯。
夏の日本酒は、案外こういう飲み方がよく似合う。